SaaS営業では、商談後に無料トライアルやPoCを実施するケースが多くあります。
実際にサービスを使ってもらえるため、トライアルを設ければ受注率が高まると考えがちです。しかし、トライアルを実施したものの、ほとんど利用されないまま期間が終了し、そのまま失注するケースも少なくありません。
よくあるのが、トライアル期間終了後に営業担当者が「実際に使ってみて、いかがでしたか?」と確認しても、顧客から「よく分からないまま、あまり使えなかったので今回は見送ります」と言われるケースです。
これは、顧客の関心が低かったからとは限りません。トライアル開始前に、何を確認し、どのような状態になれば導入を判断できるのかが設計されていなかった可能性があります。
トライアルは、自由に試してもらう期間ではなく、導入後の価値を検証し、意思決定につなげる営業プロセスです。
理由1.トライアルのゴールが決まっていない
トライアルを開始する前に、最初に決めるべきなのは「どのような状態になれば、正式導入を判断できるのか」というゴールです。
しかし実際には、「まずは一度使ってみてください」とアカウントを発行し、具体的な評価基準を決めないままトライアルが始まるケースがあります。ゴールが曖昧な状態では、顧客も何を確認すればよいのか分かりません。
例えば、営業支援SaaSのトライアルであれば、単にログインして機能を見るだけではなく、次のような確認項目を決める必要があります。
- 商談記録にかかる時間を短縮できたか
- 営業担当者が継続して利用できたか
- マネージャーが案件状況を把握しやすくなったか
- 既存の営業フローに組み込めたか
- 必要な情報を正しく蓄積できたか
トライアル開始前に、導入判断の条件を顧客と合意しておくことが重要です。
理由2.評価するためのKPIが決まっていない
ゴールを決めても、それを測るためのKPIがなければ、効果を客観的に判断できません。「営業活動を効率化する」というゴールだけでは、トライアルの結果が良かったのか分かりません。
次のように、具体的な数値や状態へ置き換える必要があります。
- 商談記録の入力時間を1件15分から5分に短縮する
- 対象となる営業担当者の80%が週3回以上利用する
- 案件情報の入力漏れを半分以下にする
- マネージャーの進捗確認時間を週2時間削減する
- 10件以上の商談で実際に利用する
重要なのは、SaaS提供企業にとって都合のよい指標ではなく、顧客が導入判断に使える指標を設定することです。
トライアル開始前には、現在どのような状態なのか、トライアル中に何を計測するのか、どの数値を達成すれば成功とするのかを決めておく必要があります。
理由3.顧客が正しい操作方法を理解していない
SaaSは、顧客が正しく使えて初めて価値を発揮します。
しかし、アカウントを発行し、マニュアルや動画だけを渡して、顧客自身に利用を任せてしまうケースがあります。顧客は日常業務を抱えているため、操作方法が分からなかったり、最初の設定でつまずいたりすると、そのまま利用されなくなる可能性があります。
その状態でトライアル終了後に感想を聞いても、「使い方がよく分からなかった」「忙しくて触れなかった」「自社でどう使うのかイメージできなかった」という回答になるのは自然です。
トライアル期間中には、少なくとも次の支援が必要です。
- 初期設定のサポート
- 利用者向けの操作説明
- 顧客の業務に合わせた利用方法の提案
- トライアル中の定期的な進捗確認
- 利用されていない場合のフォロー
- 質問にすぐ回答できる体制
トライアルの目的は、顧客に操作方法を自力で学んでもらうことではありません。サービスの価値を正しく体験できる状態をつくることです。
理由4.現場担当者と決裁者に、同じ価値を伝えている
SaaSの導入には複数の関係者が関わり、立場によって関心を持つ価値は異なります。
現場担当者が重視すること
- 操作が簡単か
- 日常業務が楽になるか
- 入力の手間が増えないか
- 自分の仕事に役立つか
- 今使っているツールより使いやすいか
管理職が重視すること
- メンバーの業務を管理しやすくなるか
- 業務を標準化できるか
- 属人化を防げるか
- チーム全体の生産性が上がるか
- 導入後に定着するか
決裁者が重視すること
- 売上増加につながるか
- コストを削減できるか
- 採用や教育の負担を減らせるか
- 事業上のリスクを抑えられるか
- 投資額に見合う効果があるか
現場担当者にROIや経営効果だけを説明しても、日常業務で使いたいとは思ってもらえないかもしれません。反対に、決裁者に操作性や細かい機能だけを説明しても、費用を承認する理由にはなりません。
トライアルでは、現場が価値を実感できる状態をつくり、その結果を経営上の価値へ変換して決裁者に伝える必要があります。
理由5.トライアル終了後の意思決定プロセスが決まっていない
トライアルが順調に進んでも、終了後に誰が評価し、誰が稟議を作成し、いつ決裁するのかが決まっていなければ、検討は止まります。
トライアル開始前には、次の点も確認しておく必要があります。
- 誰が実際に利用するのか
- 誰が効果を評価するのか
- 誰が導入を提案するのか
- 誰が最終決裁を行うのか
- 稟議にはどのような情報が必要か
- いつまでに導入を判断するのか
トライアル終了後に初めて決裁者や稟議条件を確認すると、追加の資料作成や再説明が必要になり、検討期間が長引きます。利用検証だけでなく、正式導入までの意思決定を含めて設計する必要があります。
受注につながるトライアルの設計
まとめ|トライアルは「使ってもらう期間」ではない
SaaSのトライアルは、アカウントを発行して自由に使ってもらう期間ではありません。顧客がサービスの価値を正しく体験し、導入判断に必要な材料を集めるための営業プロセスです。
重要なのは、ゴールを決める、KPIを設定する、正しく利用できる状態をつくる、関係者ごとに価値を伝える、意思決定まで設計することです。
闇雲にトライアルを実施するのではなく、正式導入から逆算して設計することで、トライアル後の失注を減らせます。